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テレビドラマで描かれる街並みや事故現場、遠く離れた国の風景。それらが、実際には存在しない映像だったとしても、私たちは物語に夢中になれるのでしょうか。
映画やドラマでは、昔からセットやCG、特殊効果を使って、現実にはない世界を作り出してきました。そこに今、新たな制作手法として生成AIが加わろうとしています。
2026年11月5日、フジテレビは湾岸スタジオにAI活用の実験場「AI Sandbox」を設置し、実写ドラマ制作で生成AIの活用を本格的に進めていると発表しました。
テレビドラマの作り方が、少しずつ変わろうとしています。
「AI Sandbox」とは何をする場所なのか
フジテレビは2026年7月、社内に「AIセンター」を新設しました。その取り組みの一つとして、9月から湾岸スタジオで運用しているのが「AI Sandbox」です。
ここではドラマの監督やプロデューサー、技術スタッフが、外部のAI関連企業などと協力し、生成AIを実際の映像制作にどう取り入れられるか検証しています。
重要なのは、ドラマの制作をすべてAIに任せるという話ではないことです。
実際の俳優による撮影、従来のCG、VFXと呼ばれる視覚効果、そして生成AI。それぞれの長所を組み合わせ、作品に適した方法を選ぶという考え方です。
例えば、撮影前に監督が思い描いている場面をAIで映像化すれば、制作スタッフ全員が完成イメージを共有しやすくなります。
言葉だけでは伝えにくかった演出も、映像で確認できる。そう考えると、AIの役割は単に映像を作ることだけではないとわかります。
「救命病棟24時」ではすでに活用
フジテレビの発表によると、2026年10月期のドラマ「救命病棟24時」をはじめ、複数の作品ですでに生成AIが使われています。
「救命病棟24時」第1話の爆発事故の場面では、AIで生成した架空の空撮映像に煙を合成する手法が採用されました。
実際に危険な事故を起こすことなく、迫力のある映像を作る。これはAIを利用する利点の一つでしょう。
医療シーンの細かな映像処理にも活用していると説明されています。
こうした使い方には、制作の負担を軽くするだけでなく、危険な撮影を減らせる可能性もあります。
さらに同社は、生成AIを活用した一部の映像制作工程で、従来の方法と比較して作業工数を最大70〜80%削減できたと発表しています。
ただし、この数字は特定の工程で得られた結果です。ドラマ全体の制作費や作業時間が同じ割合で減るという意味ではありません。
数字の大きさだけに注目せず、どの作業が効率化されたのかを見る必要がありそうです。
2027年には、すべてのドラマでAIを使える体制へ
フジテレビは現在、地上波のゴールデン・プライム帯で年間16本の連続ドラマを制作しています。
今後は2026年10月期から毎クール1本以上を「AI強化枠」として設定し、実際の作品制作を通じて経験を積んでいく方針です。
さらに2027年10月をめどに、同社が制作するすべてのドラマで、作品や場面に応じてAIを活用できる体制を整えるとしています。
これは、すべてのドラマをAIで制作するという意味ではありません。
必要なときにAIを使えるようにするという、制作環境の整備が目的です。
それでも、生成AIが特別な実験ではなく、日常的な制作手段の一つになっていく可能性を示す発表といえるでしょう。
便利になる一方で、気になることもある
ここからは、今回の発表を受けて考えてみたいことです。
AIによって制作の負担が減り、これまで難しかった映像表現が可能になることには、確かに魅力があります。
しかし、ドラマは映像の美しさだけで成立するものではありません。
俳優の表情、脚本の言葉、演出の間合い、音楽が流れるタイミング。さまざまな人の仕事が積み重なって、一つの物語になります。
AIが便利になればなるほど、そうした人間の仕事がどのように評価され、守られていくのかも気になるところです。
また、AIで作られた映像が自然になれば、視聴者には実際に撮影した場面との違いがわからなくなるかもしれません。
もちろん、ドラマはもともと虚構を楽しむものです。架空の風景を使ったからといって、それだけで作品の価値が下がるわけではありません。
ただ、現実の俳優や場所を再現する場合などには、権利や制作上の説明について、これまで以上に慎重な判断が求められるでしょう。
今回の公式発表だけでは、こうした問題への具体的な対応をすべて確認することはできません。今後の取り組みを見守りたい部分です。
私たちは何を楽しみにドラマを見るのか
考えてみれば、私たちがドラマを見るとき、撮影方法を意識することはそれほど多くありません。
本当にその場所で撮影されたのか。建物はセットなのか。遠くの風景はCGなのか。
そうしたことを知らなくても、登場人物の言葉に胸を打たれたり、物語の続きを楽しみにしたりします。
AIで作られた映像も、やがてそうした制作技術の一つとして受け入れられていくのかもしれません。
一方で、映像を作る手間が減ったからといって、面白い物語が自動的に生まれるわけではありません。
技術が進歩すれば、今度は何を描くのか、どう伝えるのかという人間の判断が、いっそう大切になるようにも思えます。
フジテレビの「AI Sandbox」は、映像制作の新しい可能性を探る試みです。
その成果を判断するのは、作業時間の削減率だけではないでしょう。
いつかドラマを見終わった夜、私たちが思い出すのは、どんな技術が使われていたかではなく、心に残った一つの場面かもしれません。
その場面を生み出す力が、AIによってどこまで広がるのか。
これからのテレビドラマを、少し違った目で見てみたくなります。
参考資料:フジテレビジョン「フジテレビがAI活用の実験場『AI Sandbox』を設置」(2026年11月5日)

生成AIによって、テレビドラマの映像制作も変わり始めています。
私たちが普段見ている映像は、どのような技術で作られているのでしょうか。
最近では、専門家でなくても生成AIや動画制作の基本を学べる書籍が登場しています。ドラマを見る楽しみが、少し広がるかもしれません。


