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数字が減ったという知らせを聞いて、私たちはどこまで安心してよいのでしょうか。
2025年、日本の自殺者数は統計開始以来、最も少なくなりました。
社会にとって、決して小さくない変化です。
けれども、同じ統計資料の中には、見過ごすことのできない別の数字がありました。
小学生、中学生、高校生の自殺者数は、過去最多となっていたのです。
一つの社会で、全体の数字は改善しながら、子どもたちの状況は悪化している。
この違いは、何を意味しているのでしょうか。
数字が示した二つの現実
警察庁と厚生労働省が2026年3月27日に公表した「令和7年中における自殺の状況」によると、2025年の全国の自殺者数は1万9,188人でした。
前年の2万320人から1,132人減少し、1978年の統計開始以来、初めて2万人を下回りました。
男性は1万3,176人、女性は6,012人。いずれも前年より減少しています。
ところが、小中高生に限ると538人で、前年の529人から9人増加しました。
こちらは統計のある1980年以降で最多です。
同じ一年を振り返った数字なのに、そこには異なる方向を向いた二つの現実があります。
減少した世代と、増加した世代
年齢別に見ても、その違いは表れています。
2025年は、20代から80歳以上までの各年齢階級で、前年より自殺者数が減少しました。
一方、19歳以下は800人から830人へと増加しています。
ここで気をつけたいのは、人数だけで社会の状況をすべて判断できるわけではないということです。
人口の規模が異なる世代を比べるときには、人口10万人当たりの自殺死亡率も確認する必要があります。
また、統計に示される増減だけで、個々の人が置かれていた事情まで分かるわけではありません。
数字は社会の変化を知らせてくれます。しかし、一人ひとりの人生を説明してくれるものではないのです。
子どもたちを取り巻く問題は、一つではない
なぜ、子どもたちの自殺者数は増えているのでしょうか。
学校生活、家庭環境、友人関係、心身の健康。
さまざまな問題が思い浮かびますが、どれか一つだけを原因と決めつけることはできません。
公表資料では、小中高生の自殺の原因・動機として、学校問題、健康問題、家庭問題などが挙げられています。
ただし、学校段階や性別によって傾向には違いがあります。
そもそも自殺に至る背景は複雑で、複数の事情が重なっている場合もあります。
警察庁の統計でも、原因・動機は一人につき最大四つまで計上できる仕組みです。
「学校が悪い」「家庭が悪い」といった単純な結論では、見落としてしまう問題があるのでしょう。
SNSに流れる映像と、見えない現実
今回、この統計を調べるきっかけの一つになったのは、Xで話題になっていた鉄道の人身事故に関する映像でした。
衝撃的な映像は、人々の関心を集めます。
そこには驚きや悲しみだけでなく、鉄道の運転士や乗客への影響を心配する声もあります。
しかし、映像だけで事故の事情や背景を判断することはできません。
そもそも人身事故のすべてが自殺によるものとは限らず、SNSに投稿された映像がいつ、どこで撮影されたものなのかも確認が必要です。
今回参照した自殺統計から、話題になった個別の鉄道事故について断定することもできません。
私たちが本当に考えたいのは、映像の衝撃そのものよりも、その背後にある社会の問題ではないでしょうか。
助けを求められる社会になっているだろうか
困っている人に「相談してください」と呼びかけることは大切です。
けれども、相談すること自体が難しい人もいるはずです。
誰に話せばよいのか分からない。
話しても理解されないと思っている。
迷惑をかけたくない。
あるいは、自分が追い詰められていることさえ、うまく言葉にできない。
そうした人に必要なのは、相談する勇気だけではないのでしょう。
話を聞いてくれる人がいること。
安心して頼れる場所があること。
学校でも、家庭でも、職場でも、困ったときに立ち止まれる余地があること。
相談窓口の整備とともに、普段の暮らしの中で孤立を深めない環境をつくることも重要だと思います。
そして、子どもたちの問題を考えるとき、大人の側にも問いかける必要があります。
私たちは、子どもが安心して弱音を吐ける社会をつくれているでしょうか。
統計を読むときに忘れたくないこと
今回紹介した1万9,188人と538人は、2025年の年間確定値です。
自殺統計には、毎月公表される暫定値と、翌年3月頃に公表される年間確定値があります。
そのため、過去のニュース記事に掲載された数字と、今回の確定値が異なる場合があります。
また、自殺統計は警察が作成した自殺統計原票をもとに集計されています。
数字の意味を正確に理解するには、集計方法や対象期間を確認することも欠かせません。
数字の向こう側にいる人々
自殺者数が過去最少になったことは、社会全体の変化を考えるうえで重要な事実です。
しかし、その数字だけを見て、日本の自殺問題が解決に向かっていると結論づけることはできません。
とりわけ、子どもたちの自殺者数が過去最多となった事実は、重く受け止める必要があります。
統計は、誰かを責めるためのものではありません。
今、どこに支援が届いていないのか。
何を変えれば、もう少し生きやすい社会になるのか。
その問いを考えるための手がかりです。
減った1,132人という数字にも、亡くなった1万9,188人という数字にも、それぞれの人生があります。
そして、数字には表れない苦しさを抱えながら、今日を過ごしている人もいるでしょう。
大きな数字の変化に目を向けることと、目の前の一人を大切にすること。
その両方を忘れずにいたいと思います。
静かな統計資料の向こうに、私たちが暮らす社会の姿が映っています。
参考資料
警察庁・厚生労働省「令和7年中における自殺の状況」(2026年3月27日公表)
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R08/R7jisatsunojoukyou.pdf
厚生労働省「自殺統計に基づく自殺者数」


